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Special Talk

映画監督・藤井道人

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俳優指導者・池内美奈子

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――藤井監督の映画「青春18×2 君へと続く道」が好調ですね。池内さん、ご覧になった感想は?

池内 台湾と日本、二つの文化を行き来することで、思い込みを取り外しやすい気がします。既成概念に縛られることなく、想像力が刺激されて、オープンな気持ちで観られると思いました。演出は日本でやるのとは違いますか?

藤井 そうですね。言葉も文化も違うので、芝居に対するアプローチも変わります。日本語なら今の言い方だとこうなるのでこうしたいんですと的確に指示できるけど、言葉がわからない分、感覚的なものを生かそうと考えました。例えば、映像では深夜の雰囲気だから、その深夜の感じをもっと持つとどうなる?とか。そうすると必然的に声が届く距離が減ったり、そういうのを試行錯誤するのが楽しかったです。

池内 シュー・グァンハンさんは主人公として、いろんな人たちの思いを引き受けられる、スケールの大きな俳優さんですね。

藤井 ほんと、出会えてよかったです。

池内 どのように出会ったんですか?

藤井 36歳の主人公が18歳の頃を振り返る話で、プロデューサーからは最初、36歳と18歳、二人の俳優を提案されたんです。だけど、僕はどちらも同じ人でやりたいと思っていて。台湾で36歳と18歳、どちらもできる菅田将暉さんみたいな人はいませんか?と聞いたら、彼しかいませんよと言われました。まさしく台湾のエースです。

池内 また映像に温かみがあって、透明感のある撮り方が印象的でした。ものすごく技術を積み上げてきたからこそ、思いが純粋に伝わる透明性を作れたんじゃないかと思いました。

――藤井監督は俳優を起用して共に映画を作る、片や池内さんはトレーニングを通して俳優を育て、才能を引き出す役割を担っています。藤井監督は撮影現場で、この俳優は訓練が足りないと思われることはありますか。

藤井 もちろんあります。それはキャスティングした監督の責任です。そこでスムーズに撮影を進めるには、監督が1,000個手数を持つことが大事。俳優と一言で言っても、演劇出身、テレビ出身、映画出身とそれぞれ違うわけで、哲学が違う人たちを一つの作品に落とし込むためには、それぞれ異なるアプローチを試みます。感情で説明した方がわかりやすい人もいれば、はっきり言ってあげた方がいい人もいます。毎回いろんな俳優がいるので、相手に合わせてという感じです。

池内 さすがですね。俳優に必要な技術って何か?と考えると、例えば声や体の使い方などの技術。もちろんそれらは基本ですが、今は「見抜く力」も求められていると思います。この現場では何を求められていて、どこまで提案するべきか。こは見せるだけがいい、もっと喋った方がいいとか、そういうことも技術の一つではないかと。

藤井 本当にそうですね。映画が演劇と大きく違うのは、何度でも撮り直せて、適切な距離感があることです。我々が撮影で、光で、音の強弱で、音楽を後でつけて、編集で俳優をどれだけ魅力的に見せられるか。今ちょうど16歳で演技未経験のヒロインを撮っています。

いでたちはいいけど技術はない人を魅力的に見せるには、カメラが寄る、いい位置に入れるとか、助け合いがかなりできるんです。だけど俳優は技術があるに越したことはないので、僕の作品は演劇出身の人が非常に多い。主演は作品のテーマによって変わりますが、脇を固める俳優たちはライフワークとして演劇をやっている人が多いです。

――撮影に入る際、俳優にはどんな準備が必要だと思われますか。

藤井 作品によります。刑事ドラマで求められるものと「青春18」で求めるものは違うので。ただ言えるのは、役を決め込みすぎないこと。でも台詞はしっかり覚えてきてもらい、そこで初めて演出が乗る状態になっているといいですね。そして演出が乗った時に本番で順応してくれる、それには技術力が必要かと。

例えばよくご一緒していただく田中哲司さん。最初は台詞だけ覚えてきて、段取りでは台詞だけポロポロ喋っている。そこで、この役は人との距離感がうまく図れない、イップスではないけど自分の言語に自信が持てない役だったらどうなりますか?と提案をする。するとその言葉を彼なりにどんどん落とし込んでくれる。そういう作業が現場で一番楽しいです。

池内 俳優さんが演出にすんなり乗れるのは、それ面白そうだな!ってその気にさせる言語能力を監督が持っているからじゃないかと思いますね。監督は学生時代からこの仕事を始められて、俳優さんの方が年上だったり、名前があったりしたことも多かったと思うんです。多分、「それ、わからない」と言われたこともあったはず。そこで言い方を変えたり、何をあげたら刺激になるのかを工夫して、その積み重ねが今に生きているのでは?

藤井 まさしく。

監督には何百本も映画を観た経験も大事ですが、自分の脳内にある思いをキャストやスタッフにどう伝えたらやる気になってくれるのか、面白がってもらえるのか、その言語能力はかなり鍛えられました。

池内 演劇だと稽古期間が一カ月くらいはあるから、そこでうまくいかないとしたら、ちゃんと伝えていない、何が欲しいのかが見えていない、そういうことが積み重なったケースが多いと思う。もしくは演出家が神様みたいになっていて、俳優やスタッフがわからないことを聞けない空気だったり。対話が少ないと難しいですよね。

藤井 中にはヒントを出さずに「もう一回」と繰り返し、延々とやらせる監督もいるそうです。僕は仕事で遊びだと思ってやっているから、早く帰りたいなと(笑)、テキパキしています。ズルズルやってていいことないし、お芝居には新鮮さも大切ですし。

池内 本当に。新鮮さ、本当に心が動いて、対話が起こっている、そういう瞬間を撮りたいし、そういう瞬間をお客さんも見たいでしょう。1,000本ノックは若い人には必要な時があるかもしれない。発声練習は毎日のルーティンにしましょうというのはあるけど、ただ大人の俳優に意味もなく1,000本ノックは怖いな、と。

藤井 トレーニングで一番必要なのは発声だと思います。僕らが日常というものを撮る時に、俳優には極力誇張しないで欲しいと思うんです。なぜなら映像で説明できる部分もあるし、感情をちゃんと見せているから、そこに感情が更に乗るとくどくなる。その駆け引きをやる時に、すごくボソッと、言葉を相手に与えるのではなく手前に落とすようにして、それを相手が拾ってくれるようなラリーをしてほしい。ただ教育を受けてない俳優がそれやると、おいおい、何言ってる?みたいになるんです。技術がある人なら、ちゃんと相手が拾えるようにできるのだけど。その辺りは若い人を演出していると痛感します。

池内 私はイギリスでトレーニングを受けて資格を取り、日本でヴォイスコーチを始めたわけですが。初期の頃はいろんな方がいらっしゃって、ものすごく勉強したい方もいれば、トレーニングしたって才能がなければ意味がないとか、現場で磨くものだから必要ないとおっしゃる方もいて。だけど声の表現ってとても大事で、相手に届くようにストレートに言う、相手に拾ってもらいたくて言うなど、喋ること一つにも様々なパターンがあるんです。そんな時に自分の中に物差しがあると、選択肢が増えて表現が明確になる。

昔は魂の叫びだー!みたいな芝居も多くてね。

藤井 映画業界はまだまだありますよ。昔のスターとは不安定なもので、二日酔いで来て何言っているかわからないけどかっこいい、みたいな(笑)。その揺れがスターであるゆえん。でもみんながそれに憧れてもね。逆に若い俳優は演技の解像度を上げることに興味を持つ人が多いから、非常に上手い人が多いです。

池内 ここ20、30年ぐらいで世の中も価値観も変わってきて、今はちょうど古い芝居と新しい芝居が混在している時期かもしれませんね。

藤井 今直面している悩みでは、演技および映画を作るにあたってのローカライズの難しさがあります。地方向けに作るとなると、ある種のエンターテインメントに特化した方が良いので、演出のアプローチが変わってきたり。また海外向けになると、もっとコメディーを入れないとヒットしないとか、中国の方々はもっとわかりやすいものを求めているとか、そのチューニングがめちゃくちゃ難しい。

例えば「青春18」で、電話を誰かにかけて涙してしまう主人公のシーンでは、自分は無音にしたいと思ったんです。でも中国の映画では、「僕の心は張り裂けそうだ」みたいな台詞を入れなければいけなくて。

 

もう一つ、今ちょうど配信のドラマを作っていて、芝居の付け方が映画とはまた違うんですよね。配信は途中で飛ばされたり、1.5倍速で見られることも多い。飽きたら終わりというシステムです。だから一気見をしてもらうことを目指す。そのために、いつものテンポの1.2倍ぐらいの速さで演出したり。感情重視で演出しているはずなのに、申し訳ないけどちょっと派手に……とお願いしたり。

池内 だけど、その選択肢があると知っていることはすごく大切ですね。

藤井 そうです。目的を見失わなければ演出の軸はきっとぶれない。俳優にもこれは配信で、残酷なことに間というものが映画ほど効果的ではないと先に伝えた上で演出しています。

池内 私、北欧系「ドラゴン・タトゥーの女」の流れにある、「THE BRIDGE/ブリッジ」がすごく好きなんです。ホラーとミステリーが混在するような作品で、すごく自然な演技で俳優に技術があることがよくわかる。世界観が日本やアジアとは違い、海や灰色の雲がずーっと続く感じで、ゆっくりドラマが進む。知らないうちに人が殺されていたりして、暗黒の世界がひたひたって迫ってくるような不思議なリズムで。そういうサブスクリプションタイプの作品もたくさんありますね。一体何が流行るのか。

藤井 ヨーロッパ系のミステリーでは「ダーク」というドラマがあります。それがめちゃくちゃ静かで、ズーンと低音が鳴り続けているという。総合力で間を持たせたり、吸引させていたりと、今は技術力がめちゃくちゃ上がっているんだなと実感できますよ。

池内 監督、北欧やヨーロッパ向けの映画を作られたらいいのでは?

藤井 50代の目標ですね。僕はマイク・リーが好きで、座右の銘が「All or Nothing」。それはマイク・リーの映画(邦題「人生は、時々晴れ」)から。あなたがいない人生なんて、All or Nothing、みたいな台詞があるんです。とても静かな映画で、そういった作品を観て育ちました。

池内 そこを根っこにして、こんなに幅広い映画を作られるのは素晴らしいですね。

藤井 恋愛と似ているというか、自分が好きなもの、得意なもの、求められるものは全部が一致しないから人生って面白いんだなって痛感しています。

池内 素敵なことをおっしゃる!マイク・リーって、絵の勉強をしていて、人間を描いていたんですよね。そのうち、人間と人間関係に興味を持つようになって、RADA(ロンドンの王立演劇アカデミー)で俳優の勉強をして、劇作や演出、映画を手掛けるようになりました。監督もいろんなものを観て、真の意味で創作の喜びと辛さを体感しながら映画を作っていらっしゃる。素晴らしいですね。

藤井 いやいや。やっと楽しくなってきましたから。20代は家族や会社があったから売れたい、評価されたいともう必死で。今はそれがないから気楽です(笑)。俳優に対しても、僕がファンだからオファーする。使ってやってるなんて微塵も思わない。だから俳優のために僕らは場を作るんです。俳優が来て、こういうロケ地か!こういう衣裳なのか!と感じ取れる部分を作るのが我々の仕事。だから俳優には、ある程度準備してもらいつつ、現場や世界観に順応していって欲しい。それにはある程度の技術がないと。1日、2日でできるものではないんですよね。

池内 監督と一緒にお仕事をするとなった時にどういうふうに整えると自分の資質を上手く使えるのか。そのためにはトレーニングが助けになるでしょう。ただ日本は西洋に比べるとトレーニングする場所が少ないのが残念で。私はいずれイギリスにあるアクターズセンター※ みたいなところを作りたいと思っているんですよ。

藤井 おお!素敵ですね。

池内 俳優さんたちがいつでもトレーニングしたいときに行ける場所。いつでも何かしらのクラスがあって、仕事と仕事の合間に行ける、そんな施設。日本は政府が芸術を支援してくれないから、自分たちでやらないと!

藤井 同感です。僕は2年前ぐらいにその問題に直面して、日本では無理だなと悟った。それで、僕らは芸術に愛のある親元を見つけて会社を売却し、そこで自分たちのオリジナル作品を作ることにしたんです。自分から動かないと、この国でやる以上は厳しいなと。

――お二人はどんな俳優と仕事をしたいと思っていますか。

藤井 僕は同じ俳優をリピートすることが多いんです。僕がずっとその人を指名しているというよりは、彼の方に主演のオファーが来たら、「藤井くんとやりたい」と言ってくださることもある。1回きりの良さもあるだろうけど、次はもっとこうできる、とお互いに研磨できる環境でものを作れるのがいいなって。新しく誰かとやるよりは、自分が全く売れてない時から一緒にやってきた人たちとの成長を大事にしたい。また想像力のある人が僕は好きです。それも訓練しないと、感受性って出てこない気がしますが。

「青春18」のシュー・グァンハンは、36歳と18歳を演じ分けるのに、重心の置き方や手の動きを自ら変えていましたね。僕が「もっと手を動かしてください」と言わなくても、18歳の自分を憑依させて、ちょっと汗ばんで背筋が伸びている、ちょっと重心が上にある感じを表してくれた。これって身体を司る俳優にしかわからないこと。自分の想像力と友達になって表現できる人は、すごい!って心から思います。

池内 最近、俳優さんたちと小さなグループで探求していることがあるんです。一般の人たちにインタビューに行って、「あなたにとってホームって何ですか」と問いかける。すると実家がホームという人もいれば、仕事場や仲間たちがホームだという人たち、今探していますという人もいる。

面白かったのは、「みんなが来てくれる、その時がいいねぇ」と70代のお母さんが言っていて。息子だけじゃなく、息子が友達を連れてきて一緒にご飯を食べたり、お話ししたりする。そうか、この方はご自身がホームなんだなと。

俳優さんがこういった人たちにインタビューをして動画を撮り、原稿を起こし、その人たちを稽古場でトレースして見せてくれる。そこで私が、この人が本当に言いたいことはなんだろう?この人のエネルギーの元はどこからくると思う?とか、それを体で探ってみようとか提案して、いろいろやりながら洗練させていく。そうすると、俳優さんが演じるその人物がとても魅力的になるんです。電車で隣にいたら全然気づかないような人が、一人一人どんどん豊かに広がっていく。

監督がおっしゃるように、昔から一緒にやっていた人たちを深く、細かく見ていくってすごくいい作業だなと思っていて。人間の可能性とは実は限りがないものなのに、「これは苦手だ」と誰もが制限してしまいがち。ただ、クリエイティブな現場に行けば、自分も知らなかった自分に出会えたり、意外な表現が生まれたりします。自分ではこのくらいかな?と思っていた枠を広げていくトレーニングや現場。信頼を絆に、そういうことができる方たちと出会っていけたら楽しいでしょうね。

――日本の演劇だと稽古時間がそれほど長くないから、ゆったりとトレーニングをしたりワークショップをやるケースは少ないです。短期決戦でやるべきことをやって、挑まなければいけない。

池内 そうですね。だからいざとなればやれる!という、その自信をつけるためにも、普段、ゆったりとクリエイティブなトレーニングをしたり、作って探求するような時間が必要だと思います。そういった引き出しを自分の中に溜めておくことで、短期決戦にも対応できるようになるので。

――こんな俳優はちょっと……、というのはありますか。

藤井 僕らは作品至上主義でやっていて、作品を観客にどのように届けるのか、その気持ちがスタッフ・キャスト全員に必要な時に、自分のことばかり気にしている人がいると、おやおや?となります。作品に入り込めずに、どこか自分の型や考え方を絶対に守ろうとすると、伝え方が難しいんですよね。監督の責任としては、その殻を破れなかったという反省もあります。お互いのリスペクトがしっかりあればできることなのか、それが訓練でできることなのかはちょっとわからないですけど。

池内 その俳優さんは自分の型をファンが求めていると思い込んでいるのかもしれないですね。特に舞台だと、皆さん、これを観たいんだと決めている可能性も。

藤井 あと入ってきた瞬間から自分に演出が乗っている人もいます。まずそれを剥ぎとって、まっさらにするのが大変。多分、俳優としてどのような状態で現場に行くべきかを教える人がいないんだろうなと。

池内 ファンがたくさんいるような方たちは、そうなりうる可能性もありますね。一方でオーディションをたくさん受けて、何度も落ちているけどとにかく頑張るぞ!と頑なになってしまったり。

 

藤井 オーディションでは何を見ているんですか?何をしたら受かりますか?ってよく聞かれますけど、その部屋に俳優が入ってきた瞬間に、お!ってなります。僕らはまだ見ぬ誰かをずっと想像していて、突然、その誰かが現れる。そうして残った1%の人がいて、あとはお芝居で選びます。正直、正解はないし作品によるから難しいです。

池内 俳優の仕事をするなら、やはり映画が好き、演劇が好き、演じるのが好き、ものすごく好きという気持ちから始まっていてほしいなと思います。もちろん売れたいという欲は健康的な上昇志向だと思うけれど。ものすごく好きだからこそ、どうしたら良くなるだろう?どうしたら俳優として魅力的になるんだろう?と、細かく自分を分析して、そのためにこれをやってみようと自分で行動する。

例えば監督の映画を気に入ったら、監督の他の作品を観てみよう、どんな俳優さんとお仕事しているんだろう?どんな映画に影響を受けているんだろう?と、好奇心をめいいっぱい働かせて、深堀りして世界を広げることができる。

藤井 ほんと、好きって大事ですよね。

池内 そこから全てが始まると思います。

――好きを起点に始めても、日本は俳優教育がないまま現場に入る人も多いので、迷ってしまうこともあると思うんですよね。

池内 イギリスやアメリカはもちろん、韓国、ロシア、フランスなどの俳優はスタニスラフスキーのテクニックが基本にあって、このキャラクターは今何が欲しいのか、何が障害になっているか、どういう与えられた状況なのか、などをわかった上で準備してきます。日本はそういうことを学ぶチャンスが少なくて、教えているところがあったとしても、それが共通言語だと捉えられてないため、他国よりも迷う人が多いと思います。でもみんながボーダーレスにいろんな国の人たちと一緒に演技できるのが理想だと思うから、そういう基礎的なところを広めていきたいですね。

監督はこれから俳優にはどんな技術が求められると思いますか?

藤井 僕が感じていることで一般論ではないかもしれませんが。最近、エンターテインメントで企画を書く際に、熱狂的なキャラクターが欲しいってよく言われるんです。圧倒的なキャラクターの強さ、これって漫画にはよくあること。その点、ドラマは弱くても成り立つもので、難病ものやBLというカテゴライズが多かったんですけど、今後求められるのはキャラクタライズだと思います。そんな強いキャラクターはかなり訓練されている俳優でないと演じられない。

実際にマーベル・スタジオの映画を見ていると、錚々たる俳優陣じゃないですか。それも有名俳優だからやっているだけではなく、ものすごく訓練された芝居をする人たちがキャラクターをより拡張させている。だから、キャラクターに強度が出るわけで。

そう考えると、キャラクター作りを一緒にできる俳優が今後は大事になってくる気がします。芝居になった瞬間、大胆に変貌して、そういう役なのねと納得できる、どういう役ですか?と聞かれて人物像や台詞の解釈についてスパンと言えるような俳優。特殊なことをすごくしてほしいわけではないんです。体重を2、3キロを変えてみようとか、そういうことを自分の中で楽しんでやれることが大事だと思います。

池内 マーベルのキャラクターや悪役たちを演じているのは、シェイクスピアの芝居をやってきた人が多いです。シェイクスピアやギリシャ劇はスケールが違うから、そこに飛躍できる想像力、それを持てる想像力の筋肉というのか、あの世界観の中での言葉を喋れる、その空気を呼吸できる俳優はある程度トレーニングしていないと難しい。トム・ヒドルストンはRADAで先生たちに、「悪くないんだけど、もうちょっとよね」とかなり心配されていたらしいです。ところが卒業後に見事に開花した。それは基礎トレーニングをしてきた蓄積があってこそ。その技術を使いこなせるようになり、今の活躍があるわけです。

藤井 想像力の筋力っていい言葉ですね。覚えておきます。

インタビュー・文・撮影 三浦真紀

​※現在、アクターズセンターの開設を構想しています。今後進展がありましたら、このサイトでお伝えしていく予定です。

藤井 道人

MICHIHITO FUJII

1986年生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業。
大学卒業後、2010年に映像集団「BABEL LABEL」を設立。

伊坂幸太郎原作『オー!ファーザー』(2014 年)でデビュー。
以降『青の帰り道』(18年)、『デイアンドナイト』(19年)、『宇宙でいちばんあかるい屋根』(20年)、『ヤクザと家族 The Family』(21年)、『余命10年』(22年)『ヴィレッジ』(23年)、『最後まで行く』(23年)など精力的に作品を発表。
2019年に公開された『新聞記者』は日本アカデミー賞で最優秀賞3部門含む、6部門受賞をはじめ、映画賞を多数受賞。

池内とは従姉弟関係にあたる。

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